書評『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 』

ギバー、テイカー、マッチャーとは?誰が最も成功するのか?

ペンシルバニア大学ウォートン校で組織心理学教授として著名なアダム・グランドさんによる科学的根拠(evidenced based)なビジネス書である。多くのビジネス書が、著者の個人的な成功談や体験談が多い中で、この本は数々の(主に)心理学系の論文で実験され検証された内容に基いて、成功する人と成功しない人はどういう人なのかをまとめた本である。科学的に根拠があるということは、再現性があるということでもあり、よってこの本に書かれている内容をヒントに行動することで、仕事と人生の成功を得ることが可能だとも言える。

GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代
『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』:アダム・グラント著

とはいえ、読み始める前のタイトル『GIVE & TAKE』から予想した内容は、よくある与えられたら与えなさい、あるいは与えなさいそしたら与えられるみたいなことだろうと、少し舐めてかかっていたが、全く違った。まずはこんな質問からはじまる。

世の中には、以下3タイプの人がいる。この中で最も成功を手に入れることができるのは誰か?

  • ギバー(Giver):人に惜しみなく与える人
  • テイカー(Taker):真っ先に自分の利益を優先させる人
  • マッチャー(Matcher):損得のバランスを考える人

この質問を社内でも聞いてみたが完全正解した人はいまのところいない。ギバーとテイカーが最も成功すると回答した人が半々くらいだろうか。ギバーと考えた人は、やっぱり与える人が一番成功するだろうと予測した一方で、テイカーと考えた人は、自分の利益を優先する人が一番成功しそうと思ったようだ。では、次の質問ではどう考えるか?

上記の3種類の人種の中で最も成功を手に入れることができない(不幸になる)のは誰か?

※「成功しない」であって「失敗する」ではないことに注意

これもまた悩ましい質問だ。ここでも、ギバーとテイカーと答える人が半々くらいに分かれ、ごくわずかにマッチャーと答えた人もいた。では正解は何か?

正解は最も成功するのも、最も成功しないのも 「ギバー」 である。実は、ギバーには2タイプに分類される。

  • 成功するギバー:他者志向のギバー
  • 燃え尽きるギバー:自己犠牲的なギバー

最も成功するのは「他者志向のギバー」、最も成功しないのは「自己犠牲的なギバー」なのである。なぜか。自己犠牲的なギバーも他者志向のギバーと同様に「他者志向」ではあるのだが、成功するギバーとの大きな違いは、「自己利益への関心」があるかどうかである。成功するギバーは、他者志向でもあり、かつ自己利益にも関心を寄せる。一方、自己犠牲的なギバーは、他者利益を優先し、自己利益は後回しに考える。よって、テイカーによって搾取されるため、成功しないというわけだ。

テイカーは自己犠牲的なギバーの対象にあり、自己利益が最大の関心事であり、他者利益には興味はない。一見、最も利益を得るため成功しそうに思えるのであるが、そうは問屋がおろさない。世の中は実によくできている。テイカーが最も成功しないのは、マッチャーがいるからである。

マッチャーは与えたら与えるし、やられたらやりかえす、ただし自らは積極的に最初のアクションをおこなさないタイプの人である。マッチャーにとって最も許せないことは何かというと、与えたら与えられっぱなしのテイカーである。マッチャーはその信念によって、テイカーに仕返しをするのだ。とはいえ、マッチャーは自ら最初の行動を起こさない、相手の行動によって態度を変える戦略をとるので、意思決定のスピードが遅くなり、結果、最も成功している人にはならない。

ゲーム理論でギバー、テイカー、マッチャーの誰が最適戦略なのかを検証する

ギバー、テイカー、マッチャーのどの意思決定が最も最適なのかをゲーム理論を使って説明する。ゲーム理論とは、現実の意思決定に関して数学理論でモデル化する研究なのであるが、ここでは有名な「囚人のジレンマ」を使って説明する。

囚人AとBは逮捕され、別々の部屋で警察から事情聴取を受けている。互いに状況を知ることはできない。ここで囚人AとBには、「白状するか」「黙秘するか」の二択に迫られる。

二人の囚人が共に黙秘すれば刑は軽くて済む。なので、二人とも黙秘する行動を取るのではないかと予想されるのだが、しかし、ここで警察は「白状すれば刑は軽くなるよ」と揺さぶりをかける。もし仮に、片方だけ白状し、もう片方は黙秘したとしよう。白状したほうが懲役を免れる一方、黙秘したほうは最も重い懲役を被ることになる。二人とも、白状した場合は二人とも黙秘した場合よりは重たい刑を被ることになる。表にまとめると以下である。

囚人B:白状する囚人B:黙秘する
囚人A:白状するAもBも懲役5年Aは懲役0年、Bは懲役10年
囚人A:黙秘するAは懲役10年、Bは懲役0年AもBも懲役2年

詳しくは Wikipedia「囚人のジレンマ」 を参照。

囚人AもBもどちらも他者利益と自己利益を考える他者志向ギバーであるならば、懲役2年で済む(でも一般的に考えて、そんな囚人は少なさそう・・・)。次にどちらもがテイカーであれば、どちらも自分利益優先で白状して、どちらも懲役5年被ることになる。最悪な組み合わせは、片方がテイカーで、片方が自己犠牲的なギバーだった場合である。テイカーが白状する一方で、自己犠牲的なギバーは黙秘するので、自己犠牲的なギバーだけ懲役10年となる。

本の中には、実例(エンロン事件など)をあげて紹介してもいるが、こうやって数学モデルでも自己犠牲的なギバーが最も成功しないというのがわかる。

なお、ゲーム理論上での最強の戦い方としては「しっぺ返しの戦略」と呼ばれるものである。実際に、著名な経済学者を集めて、ゲーム理論での必勝法がどれなのかを実験した結果、何度やっても「しっぺ返しの戦略が最強」だったらしい。

「しっぺ返しの戦略」とは、基本的には相手の戦略をマネすることである。相手が良いことすれば自分も良いことをし、相手が裏切れば自分も裏切るという戦略である。初回だけ自分が先行の場合は、良いことをするという戦略をとる。

この「しっぺ返しの戦略」はまさにマッチャーの行動である。ゲーム理論では、テイカーはマッチャーに勝つことができないという実験が何度も行われている。なので、テイカーがいた場合は、マッチャーになりきり、しっぺ返し戦略をするとよい。

燃え尽きないために

ゲーム理論ではマッチャーが最強となるが、現実の世界は少々異なる。他者志向のギバーが最も強い。自己犠牲的なギバーが他者志向のギバーとなるにはどうしたらよいのだろうか?

本で紹介されていたとあるコールセンターでの実験が大変興味深かった。ある大学で、寄付金を電話で募るという仕事をしているオペレーターたちをギバー、テイカー、マッチャーにわけ、それぞれの生産性について研究を行った。寄付金を断られる割合は98%を超えていたこともあり、ベテランで成績優秀なオペレーターでさえ、燃え尽きていた。最初の予測では、テイカーが最も脱落するだろうと思われていたが、実際はテイカーは成績がよく、ギバーの生産性ははるかに低いという結果になった。

なぜテイカーは成績を維持できていたのか。それはオペレーターたちは大学構内で最も給料の高い職についていたことで、やる気が引き出されていたために生産性が高かった。しかし、ギバーは給料によってやる気は引き出されない。ギバーにとって一番大事なことは、人の利益になっていること、人の役に立てていることである。

そこで、ある日、オペレーターたちの前で、寄付金によって奨学金をもらったことでどんなに助かったかという実際の学生の手紙を読んでもらった。そうすると何がおきたか。ギバーはかつてないほどに寄付金をかき集め、テイカーよりもよい成績をおさめることができたのだ。

ギバーが燃え尽きるのは、与えすぎたことよりも、与えられたことでもたらされた影響を前向きに認められないことが原因なのである。困っている人をうまく助けてあげられないときに燃え尽きるのである。

自分の周囲にはギバーだと思う人はたくさんいるが(ありがたいことに)、どことなく元気がないとか、仕事のやる気が引き出されていないという人をみかけることがある。いつもなんでだろうと思っていたのだが、この本をみてものすごく納得した。燃え尽き症候群になっているのだと。なので、そういう人たちには、とても助かっていることや感謝の気持ちを実際に伝えてみたところ、効果があったように思える。ささやかな一言ではあるが、こんなにも効果があるなんて。それを学べたことの価値は大きいと思った。

あなたはギバー?テイカー?マッチャー?診断してみよう

この本の参考文献には、自分がギバーなのか、テイカーなのか、マッチャーなのかを診断できるサイトが紹介されていたのでここにも記載しておく。

著者のアダム・グラントさんのサイトにある。
http://www.adamgrant.net/selfgivertaker

無料診断ではあるが、最初にちょっとした登録が必要である。登録すると診断ページが表示される。ただし、診断はすべて英語であり、結構な質問数があるので、英語と時間に余裕があるときにしたほうがよさげ。

で、実際にやってみた結果である。以下はこの記事を書いているわたし個人の結果。

診断結果

自己診断ではマッチャータイプだろうなーと思っていたのですが、上記の診断結果をみてわかるようにどれか一つというわけではなく、ギバー、テイカー、マッチャーの3つの比率で構成されるらしい。

ギバー率47%、テイカー率13%、マッチャー率40%。比率だけみると、ギバーってことだろうか。ただこの診断結果から、他者志向のギバーなのか、自己犠牲的なギバーなのかまではわからなかった。どこか読み落としてるかな?

この診断をあいつはギバーだとかテイカーだとかいいながらワイワイ診断してみたんだけど、概ねみんなギバー率が高かったように思う。で、さすがは日本人集団。ギバー率がどのくらいあるのかを競い合ったり・・・・・自分のほうが高いとか低いとか・・・・・(笑)

ま、アンケートなんでね。自分がギバーだと思っていれば、ギバーになりやすいわけで。主観的アンケートのどこまで信憑性があるかはわからないですが、ちょっとした動物占いみたいで面白かった。

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